顧問先リストは印刷しました。税理士としての廃業日も決めました。それでも、挨拶状の一行目が書けない。

文章力の問題ではありません。ペンが止まるのは、感謝より先に申し訳なさが立ち上がってくるからです。

この手紙に何を書き、何を書かないか。そして、手紙と一緒に何をお渡しするか。文例も含めて、順に整理していきます。

その気持ちのほうを先に整理したい先生は、顧問先への申し訳なさをどう受け止めるかもあわせてどうぞ。

顧問先へ出す挨拶状に、何を書いて何を書かないか

白紙の一行目に鉛筆の先を置いたまま、書き出しをためらっている手元のイラスト

挨拶状に入れておきたい6つの要素

何度も書き直してしまうのは、書く順番が決まっていないからかもしれません。下の6つをこの並びのまま置けば、それが手紙の流れになります。

  1. 時候の挨拶と書き出し。2文ほどで切り上げます。時候文が長いほど、本題が後ろへ下がります。
  2. 廃業の事実と、廃業日。年月日を特定して書きます。ここが決まらないと、顧問先は次の一手を決められません。
  3. これまでの感謝と、お詫びを一言。年数や具体的な関わりに触れ、ご負担をおかけする点へのお詫びを1文添えます。感謝が主、お詫びは従です。
  4. 業務の終了時期と、最後まで対応する範囲。「◯年◯月期の申告までは責任をもって対応します」と書きます。相手が知りたいのは、どこまでお願いしてよいのかです。
  5. 後任について。紹介できる場合も、できない場合も、一言だけでも触れておきます。書かずにおくと、そこだけが気がかりとして残ります。書き分けは次の章の文例で。
  6. 廃業後の連絡先と、守秘義務についての一言。税理士法第38条は、税理士でなくなった後も秘密を守る義務が続くと定めています。その趣旨を1文添えるだけで、相手の不安はひとつ減ります。

書かないほうがよいこと

ここからは、入れないでおく話です。相手を困らせないための引き算だと思ってください。

廃業理由を詳しく書くほど、読んだ側は返事に困ります。健康や家庭の事情はとくにそうです。「一身上の都合により」で足ります。

制度や業界、特定の相手のせいにする書き方も置きません。読み手には反応のしようがありません。

「必ず◯◯先生にお願いしてください」という断定的な推薦も避けます。選ぶ主体は顧問先です。その余白は残しておきます。

「近日中に」「いずれ」といった曖昧な期日も避けます。顧問先は自分の申告期限から逆算して動きます。

表で整理する

ここまでを一覧にしておきます。手が止まったときは、左の列を上から順に見てください。

挨拶状の要素 書くとよいこと(例) 避けたい書き方(例)
書き出し・時候の挨拶 簡潔に2文程度 長い時候文で本題が後ろへ下がる
廃業の事実と廃業日 年月日を特定して書く 「近日中に」「いずれ」等の曖昧な期日/体調や家庭の事情を詳しく書く
これまでの感謝とお詫び 年数や具体的な関わりに触れ、お詫びは1文添える 定型句だけで済ませる/お詫びを何度も重ねる
業務の終了時期と最終対応範囲 「◯年◯月期の申告まで対応します」 どこまで面倒を見るかを書かない
後任について 状況を率直に書き、判断は相手に委ねる 「必ず◯◯先生に」という断定的な推薦
廃業後の連絡先・守秘義務 連絡手段と、情報を守り続ける旨を1文 制度や事情への不満・他責の記述

そのまま使える文例2パターン

ここからが本題です。そのまま写して、[ ]の中だけ差し替えれば形になります。

文例① 後任を紹介できる場合

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、私こと、誠に勝手ながら[令和◯年◯月◯日]をもちまして税理士業務を廃止し、[事務所名]を閉じることといたしました。一身上の都合によるものでございます。

[◯]年の長きにわたり、御社の決算・申告をお預かりしてまいりました。ご相談をいただくたび、こちらが教えられることばかりでございました。このたびのことで御社にご負担をおかけいたしますこと、深くお詫び申し上げます。

業務は[◯年◯月期]の申告まで責任をもって対応いたします。それ以降につきましては、恐れ入りますがお受けいたしかねます。

後任につきましては、引き継いでいただける先生をご紹介できる状況にございます。[後任事務所名・所在地・電話番号]でございます。お会いになったうえで、御社にてご判断ください。

廃業後のご連絡は[連絡先]にて承ります。業務を終えましたあとも、お預かりした情報を他に漏らすことはございません。

末筆ながら、御社のご発展をお祈り申し上げます。

敬具

文例② 後任が決まっていない場合

骨格は①と同じです。変わるのは後任の段落だけなので、そこだけ見比べてください。

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、私こと、誠に勝手ながら[令和◯年◯月◯日]をもちまして税理士業務を廃止し、[事務所名]を閉じることといたしました。一身上の都合によるものでございます。

[◯]年の長きにわたり、御社の決算・申告をお預かりしてまいりました。ご相談をいただくたび、こちらが教えられることばかりでございました。このたびのことで御社にご負担をおかけいたしますこと、深くお詫び申し上げます。

業務は[◯年◯月期]の申告まで責任をもって対応いたします。それ以降につきましては、恐れ入りますがお受けいたしかねます。

後任につきましては、現時点でご紹介ができておりません。そのぶん、引き継ぎに必要な資料は責任をもって整えてお渡しいたします。お預かりの書類とデータは、[◯月◯日]までに[郵送/ご来所]にてお返しいたします。ご不明な点は[◯月◯日]までにご連絡ください。

廃業後のご連絡は[連絡先]にて承ります。業務を終えましたあとも、お預かりした情報を他に漏らすことはございません。

末筆ながら、御社のご発展をお祈り申し上げます。

敬具

「申し訳ない」を、どう一行に収めるか

書き出すと、お詫びの言葉がいくつも並んでしまう。誰もが通る道です。

ただ、お詫びは1文か2文で足ります。繰り返すほど、読んだ側が気を遣います。「なんとお返事すれば」と、相手に宿題を渡す形になります。上の文例でも、感謝の段落に続けて1文だけ置いています。

配分としては、感謝を主に、お詫びを従に。謝罪を重ねるより、「最後まで責任をもって終えます」と書くほうが誠実に届きます。申し訳なさは、段取りの正確さで伝わります。

なお、上の文例は当社が作成したサンプルです。法的な効力や、記載事項の網羅性を保証するものではありません。個別の事情については、所属税理士会や顧問弁護士にご確認ください。

挨拶状と一緒に用意するもの・返すもの

書類・データ・情報の3つに分けて考える

案内文が書けたら、次は同封するものです。ここで一度、頭の中を3つに分けておくと漏れが減ります。

お返しするもの(もともと顧問先の所有物)。お渡しするもの(先生の側で作成し、引き継ぎに要るもの)。お伝えするもの(物ではなく情報)。渡す相手も時期も方法も違うので、ひとまとめにするとどれかが抜けます。

チェックリスト

手元の顧問先リストと並べ、1社ずつ渡した日と受領の有無を書き込んでいく形が確実です。

分類 具体的なもの 渡すタイミング 注意点
書類 お預かりしている原本(定款、許認可の写し、登記事項証明書など) 面談時 原本は受領確認を残す
書類 過年度の申告書控え・決算書 面談時 何年分をお返しするか先に伝える
書類 税務調査・修正申告に関する記録 面談時 経緯をたどれる順に並べて渡す
書類 固定資産台帳・償却資産関係 面談時 台帳と申告書の年度をそろえる
データ 会計データ 後日郵送 渡せる形式を先に確認する
データ 給与計算データ 後日郵送 受け渡しの方法を先に決める
データ 電子的に保存している帳簿・書類 後日郵送 渡す範囲と方法を事前にすり合わせる
情報 e-Tax・eLTAX の利用者識別番号など、一般に引き継ぎ資料として挙げられる情報 面談時 口頭で伝えず書面で残す
情報 各種届出の提出状況 面談時 提出済みと未提出を分けて書く
情報 顧問先ごとの申告期限 案内文と同封 直近の期限は案内文でも触れる

挨拶状を出す前に、済ませておきたいこと

税理士会への手続きは、挨拶状と並行して進む

案内文と並行して、税理士会の手続きも動きます。東京税理士会は、業務廃止のときに用意するものを示しています。税理士登録抹消届出書、税理士会員退会届、税理士会員章(バッチ)、略章(貸与申請をしていた場合)、会員門標、税理士証票。加えて、所属支部への「税理士業務の事後処理についての連絡」です(出典:東京税理士会)。同じページには、業務廃止される方は別途税務署等に業務廃止手続きをしてください、との注記もあります。

届出の手続きそのものの解説は、この記事の範囲を超えます。必要書類や受付の運用は所属する税理士会によって異なるため、詳しくは所属会にご確認ください。

税務代理の委任が終わったことを、税務署へ伝える

もうひとつ、税務署側への手当てがあります。税務代理権限証書に記載した税務代理の委任が終了した旨を、税務官公署へ通知する手続きです。国税庁が様式を用意しています(出典:国税庁)。

順番には気をつけたいところです。顧問先へ知らせる前に委任の終了だけが進むと、事情を知らない顧問先が税務署から先に連絡を受け取りかねません。手紙が先か、通知が先か。並べて考えておきます。

挨拶状はいつ送るか

廃業の挨拶状は、一般に2〜3ヶ月前までにと言われています。ただ税理士の場合、顧問先は後任を探し、税務代理を引き継ぐ時間が要ります。半年前を目安に書面でお伝えする先生が多いようです。

申告期限から逆算していつ動くか、どの顧問先から伝えるか。時期と順番については別記事で詳しく整理しています。

その手紙を出す前に、もう一度だけ確認したい選択肢

挨拶状を出すと、その時点から顧問先は次の先生を探し始めます。出す前にだけ確認できることを、並べておきます。

  • このまま廃業し、顧問先には個別に引き継ぎ先を探してもらう。
  • 事務所ごと引き継いでもらう。第三者に承継する形です。
  • 一部の顧問先だけ引き継ぎ、残りはご自身で終える。段階的に縮小する形です。

どれが正しいということはありません。ただ、手紙を出す前なら、3つとも選べます。

まとめ

この手紙で伝えることは、「辞めます」ではありません。「ここまでは責任をもって終えます」です。そう考えると、書く内容は自然に決まってきます。

  • 入れておく6つは、書き出し、廃業の事実と廃業日、感謝とお詫び、最終対応の範囲、後任、廃業後の連絡先と守秘義務
  • 書かないでおくのは、廃業理由の詳述、他責、断定的な推薦、曖昧な期日
  • 一緒に用意するのは、返す書類、渡すデータ、伝える情報

一行目は、感謝から書き始めて構いません。「長い間、ありがとうございました」。そこから続きが出てきます。


一人で並べきらなくても、構いません

ここまでの段取りを、一人で全部組み立てるのは骨が折れます。手紙、書類、届出、そして残りの選択肢。

私たちは、その段取りを一緒に並べる仕事をしています。廃業のまま進めるか、どなたかに引き継ぐか、一部だけ残すか。どれを選ばれても構いません。決めるのは先生です。

売却をおすすめする場ではありません。「この順番で合っていますか」の確認だけでも、お使いください。

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※ ご相談いただいても、契約や仲介を前提とするものではありません。オンラインでも承っています。

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