先週置いていかれた名刺が、まだ机の上にあるかもしれません。M&A支援機関の登録制度は、相手の選び方を考えるための、ひとつの物差しです。断る理由も、任せる理由も見つからない。捨てるでもなく、電話するでもなく、2週間。この記事は制度を勉強するためのものではありません。次の面談で、先生が主導権を持って座るためのものです。読み終えるころには、何を聞けばいいかが決まっているはずです。

その「登録済み」、名刺に書かれた言葉の出どころ

虫眼鏡を手に、落ち着いた表情で内容を確かめているビジネスマンのイラスト

感じの悪い担当者ではなかった。だから、かえって困る。断る理由がないのに、任せる理由もない。名刺を裏返しても、答えは書いていません。まずは資料の隅にあった一言の出どころから確かめます。

それは自称ではなく、国の制度の名前です

「M&A支援機関登録済み」。これは、その会社が勝手に名乗っている肩書きではありません。中小企業庁が令和3年(2021年)8月に創設した、M&A支援機関登録制度という仕組みの名前です。中小企業のM&Aを支援する仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー。譲渡側か譲受側の一方につく助言者)が、要件を満たして登録されます。ただし、国が腕前を保証したという意味でもありません。お墨付きと自称の、ちょうど中間にある制度です。

何を宣言すれば登録できるのか

では、何をすれば登録されるのでしょうか。中心にあるのは宣言です。中小M&Aガイドライン(中小企業庁が示した、M&Aの進め方と支援者の心得の指針)を遵守すると宣言すること。そして、その宣言を自社サイトに掲載し、誰でも読める状態にすること。この2点が要件だと説明されています。サイトを持たない場合の取扱いは、その年度の公募要領に定めがあります。令和6年度からは、手数料体系を公表することも要件に加わりました。ガイドライン自体も2024年8月に第3版へ改訂されています。試験に合格した会社が並んでいるわけではない。そこが出発点です。

宣言が担保すること、担保しないこと

宣言ベースと聞くと、今度は逆に不安になるかもしれません。意味がないのか、と。そうではありません。宣言したことは、後から検証できる約束になります。ただ、担保される範囲は限られています。

確かめたいこと 登録の有無で分かるか 補足
ガイドラインを守ると宣言しているか ○ 登録の要件そのもの
手数料体系を公表しているか ○ 令和6年度から要件に追加
苦情の受付や登録取消しの仕組みがあるか ○ 制度側に用意されている
支援の質・担当者の力量 × 宣言は品質の保証ではない
成約するかどうか × 結果は約束されない
提示された手数料が妥当か × 公表であって、適正の認定ではない

大事なのは右側です。登録されているからうまくいく、とは読まない。登録は相手を絞り込む最初のふるいだと考えてください。

自分で確かめられる。公開データベースの使い方

疑いたいわけではないのだと思います。ただ、確かめる方法を教わっていないだけ。幸い、この制度は調べる側にも開かれています。

登録支援機関データベースの開き方

制度の事務局が運営するサイトに、登録支援機関データベースが用意されています。「M&A支援機関登録制度」で検索しても見つかります。使い方は難しくありません。検索画面に会社名をそのまま入れるだけです。名刺の会社名を、一字違わず打ち込んでみてください。本社の所在地(都道府県)や、支援機関の種別、M&A支援業務に専任している従業員の人数などでも絞り込めます。誰かに断る必要も、相手に知られることもありません。

データベースで見る3項目

開いたら、見るところは3つで足ります。登録の有無、公表されている手数料体系、支援実績に関する情報です。手数料体系の公表は2024年8月に始まりました。着手金があるのか、途中で費用が発生するのか、成功報酬は何を基準に計算するのか。金額そのものより、どの段階でお金が動く設計かを見ます。ここが読めていれば、面談で数字を出されたときに慌てずに済みます。

確認できる項目 読み取れること 読み取れないこと
登録の有無 遵守を宣言し、登録されている状態か 支援の質、担当者の力量
手数料体系 何に、どの段階で費用が発生する体系か 提示される額が妥当かどうか
支援実績に関する情報 支援した件数や、専任している人数の目安 先生の事務所と同じ形を扱えるか

検索しても出てこなかったら

名前が出てこなくても、そこで結論を出さないでください。理由は2つあります。ひとつは、登録がないこと自体が悪いとは限らないこと。これは次の章で扱います。もうひとつは、単なる表記の違いです。株式会社が前か後か、旧社名のままか、担当者個人ではなく所属先の法人名で登録されているか。会社名を短く区切って検索し直すと、見つかることがあります。

登録の有無が実際に意味すること

知っておきたいのは、登録の良し悪しではありません。それが何に効くのか、です。効く場面は、かなりはっきりしています。

お金に直結する場面:事業承継・M&A補助金

いちばん分かりやすいのはお金の話です。事業承継・M&A補助金には専門家活用枠があり、仲介手数料やFAへの費用の一部が補助対象になり得ます。ここで登録が効きます。登録されていない仲介者やFAに支払った手数料は、補助の対象にならない扱いだと示されています。同じ支援を受けても、相手の登録の有無で自己負担が変わる。感情ではなく、制度の話です。2026年の公募回次では、小規模な譲渡側を対象とする類型(小規模売り手支援類型)も新たに設けられました。一人事務所の規模でも視野に入る余地があります。ただ、上限や要件は公募の回ごとに見直されます。条件はその回の公募要領で確認するのが確実です。

相談先の類型 登録の有無 専門家活用枠との関係
登録している仲介会社・FA あり 支払った手数料が補助対象になり得る
登録していない仲介会社・FA なし 手数料は補助対象にならない扱い
知人の税理士への個人的な相談 ないことが多い 対象になりにくい。他の要件も確認が必要
公的な相談窓口 制度の枠組みが異なる 仲介手数料が発生しない相談が中心

登録がない相手は避けるべきか

では、登録のない相手は外すべきなのでしょうか。そうとも言い切れません。士業に特化した小さな支援者や、長い付き合いのある同業の先生は、そもそも登録していないことがあります。登録は相手を測る材料のひとつです。唯一の基準ではありません。

そのうえで、制度には受け皿もあります。登録された機関の対応について、中小企業者などから情報を受け付ける窓口が設けられています。ガイドライン違反や、要件を満たさなくなった場合などには、登録が取り消されることがあると説明されています。何かあったときに言う先がある。それだけでも、面談に臨む気持ちは少し違うのではないでしょうか。

登録の有無より先に確かめたいこと

ここまでは制度の話でした。ここからは、士業事務所ならではの選び方の話です。相手を選ぶ主導権は、こちらにあります。

顧問先が個人・小規模であること

顧問先が数十件という規模は、一般の中小企業のM&Aとは事情が違います。1件あたりは小さく、代わりに件数が多い。しかも顧問先の多くは個人や小規模法人です。相手が扱ってきたのが製造業や飲食業ばかりなら、この構造を説明するところから始まります。データベースに載っている支援実績や専任者の人数は、その当たりをつける材料になります。ただし、士業事務所の扱いに慣れているかどうかは、直接聞いて確かめるほうが確実です。

顧問契約の一身専属性(その人だから続いている、という契約の性質)

顧問契約は、事務所ではなく先生個人への信頼で続いてきた面があります。一般に、こうした契約が自動的に引き継がれるとは限らないと言われています。譲渡の話がまとまっても、顧問先が納得しなければ動きません。誰に、どの順番で、いつ伝えるのか。その設計を相手が持っているかどうかを聞いてみてください。

職員の処遇

そして職員の方です。パート職員が1名でも、その方には生活があります。雇用条件は変わるのか、勤務地は動くのか、いつ伝えるのか。ここを「後で詰めましょう」と流す相手には、少し立ち止まったほうがいいかもしれません。先生が最後まで気にするのは、たぶんここです。譲渡の手順と、どの段階で何が起きるかは、税理士事務所 売却の流れ|6ステップと期間の実態にまとめています。

次の面談で聞く3つの質問

今夜も、名刺を眺めてスマホを置いたかもしれません。その続きを、ここで終わらせます。持っていくのは3つの質問だけで足ります。

チェックリスト:次の面談で聞く3つ

  • 御社の登録番号を教えてください。データベースで確認したいので。
  • 手数料体系の説明を、書面でいただけますか。
  • 士業事務所の支援実績は、どこで確認できますか。

言い方は、これくらい素っ気なくて構いません。3つとも、答えられて当然の質問です。むしろ、はぐらかされたときの反応が、いちばんの判断材料になります。

専門家に相談するタイミング

3つ聞いても、決められないかもしれません。それでいいと思います。譲るか、続けるか、閉じるか。名刺1枚で決める種類の話ではありません。相手方ではない立場の人に、いちど話してみるという選択肢もあります。一人で抱えたまま2週間が2か月になるより、そのほうが早いことがあります。

まとめ

登録制度は、答えを出してくれる仕組みではありません。相手を絞り込むための材料のひとつです。決めるのは先生です。譲る、続ける、閉じる。今の時点では、どれも選択肢として残っています。まずは名刺の会社名をデータベースに入れてみる。次の面談で3つ聞いてみる。それで十分です。


名刺を机に置いたまま、断るでも電話するでもなく2週間。その姿勢のままで、十分だと思います。ただ、次の面談までに、もうひとつだけ選択肢を置いておきます。

💬 まずは30分、話を聞いてみませんか

「売る」と決めていなくても構いません。譲るか、続けるか、閉じるか。今の時点では、どれも選択肢のままで大丈夫です。

エナウトパートナーズは仲介会社ではありません。先生の判断に伴走する、第三者の立場です。名刺の会社と話す前に、相手方ではない人にいちど話してみる。そのほうが、次の面談で何を聞けばいいかが、もう少しはっきりすることがあります。

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よくある質問

登録されていれば、国が品質を保証してくれるのですか。

保証ではありません。ガイドラインを守ると宣言し、それを公表していることの確認です。支援の質や結果までは含まれません。

登録番号は自分で確認できますか。

できます。制度の事務局サイトにある登録支援機関データベースで、会社名を入れて検索するだけです。

手数料はいくらが妥当ですか。

妥当な額を一律に示すことはできません。見るのは体系です。着手金の有無、中間金が発生する時点、成功報酬の計算基準。この3点を書面で説明してもらえるかを確かめてください。

一人事務所でも補助金の対象になりますか。

対象となり得ます。2026年の公募では小規模な譲渡側向けの類型(小規模売り手支援類型)も設けられました。ただし要件は回次ごとに異なるため、公募要領での確認が必要です。

登録のない知人の税理士に譲るのは問題がありますか。

問題があるとは限りません。実際によくある形です。ただ、顧問契約の引継ぎ、職員の処遇、税務の扱いは別途の整理が要ります。気心が知れているぶん、条件を書面にしないまま進みやすい点だけご注意ください。

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