「特例承継計画の期限が延びた」というニュースを目にして、少しほっとされた先生もいらっしゃるのではないでしょうか。夜、事務所を閉めたあとに承継のことをぼんやり考えていた矢先の一報です。ただ、この「延長」には注意したい点があります。延びたのは片方の期限だけ。もう片方は据え置きのままです。この記事では、何が延びて何が延びていないのかを整理し、税理士オーナーの先生が「今やること」と「後回しでよいこと」を分ける手がかりをお渡しします。
延びたのは「計画を出す期限」だけ——まず結論から

まず、いちばんお伝えしたいことから書きます。今回延びたのは、特例承継計画(事業承継税制を使うために提出する計画書)の提出期限です。
「まだ準備が間に合っていない」と気にされていた先生には、一息つける知らせだと思います。書類を出すまでの猶予が延びたわけですから、その安心はまっとうなものです。
ただ、ここで気をつけたいことがあります。延びたのは「計画を出す期限」であって、「実際に承継を実行する期限」ではありません。この2つは別物です。混同すると、思っていたより時間がないという事態になりかねません。
下の表で、2つの期限を並べてみます。
| 期限の種類 | 法人版 | 個人版 |
|---|---|---|
| 計画を出す期限(今回延長) | 2027年9月30日 | 2028年9月30日 |
| 承継を実行する期限(据え置き) | 2027年12月31日 | 2028年12月31日 |
見比べていただくと、法人版では計画提出から実行までが3か月しかありません。この短さが、後の章でお話しする注意点につながります。まずは「延びたのは片方だけ」という一点だけ、頭の隅に置いてください。
見落としやすい「実行期限」——こちらは延びていません
もう少し詳しく、実行期限のお話をします。
実行期限とは、実際に贈与や相続で事業を後継者へ引き継ぐ期限のことです。この制度は期間を区切った特別な措置(時限措置)として設けられています。そのため実行期限は、今回延長されていません。
今後さらに延長されるかどうかも、現時点では延長されない見込みとされています。断定はできませんが、「また延びるだろう」と当てにして構えるのは避けたほうが安全です。
ここで先ほどの表を思い出してください。法人版の場合、計画提出は2027年9月末まで延びました。けれど実行期限は2027年12月末のまま。つまり、提出をぎりぎりまで引っ張ると、そこから実行までわずか3か月です。
承継は書類を一枚出して終わる話ではありません。後継者との合意、顧問先への説明、株式や資産の移し方の検討——こうした段取りに時間がかかります。それを3か月で走り切るのは、なかなか骨が折れるのではないでしょうか。
提出期限が延びたことで、うっかり全体を後ろ倒しにしてしまう。すると実行までの助走が足りなくなる。この構造こそが、今回いちばん見落とされやすいところです。延びた期限に合わせて動くのではなく、延びていない実行期限から逆算する。この向きの違いが、あとで効いてきます。
「今やること」と「後回しできること」を分けて考える
ここまで読んで、「では何から手をつければ」と感じられたかもしれません。でも、すべてを今すぐやる必要はありません。大事なのは順番です。
承継の準備には、早く始めないと間に合わないものと、少し待ってからでも困らないものがあります。ここを分けずに一度に抱え込むと、かえって手が止まります。逆に、実行期限から逆算して優先順位をつければ、今の一歩がずっと軽くなります。
下のチェックリストは、実行期限を起点に「今なのか、後でよいのか」を考えるための目安です。ご自身の状況に照らしてみてください。
実行期限から逆算するチェックリスト
- 自分の事務所が法人版・個人版のどちらに当たるか、実行期限がいつかを把握している
- 後継者候補(親族・従業員・第三者)について、大まかな方向性を考え始めている
- 承継の方法によって必要な準備期間が変わることを理解している
- 顧問先への影響や説明のタイミングを、頭の片隅に置いている
- 制度を使えるかどうかを、専門機関に確認する段取りを持っている
上の3つ目までは、早めに手をつけたい項目です。方向性が定まらないと、その先が動き出しません。一方、顧問先への具体的な説明などは、方針が固まってからで間に合うことが多いようです。
つまり「今やること」は、方向性を決めるための材料集めと、実行期限の確認。「後回しできること」は、方針が固まってからの実務の段取り。この二層に分けるだけで、気持ちがずいぶん整理されるはずです。
焦って全部を並行させる必要はありません。けれど、順番だけは間違えない。まずは自分の実行期限を確かめるところから始めてみてはいかがでしょうか。
「今やること」と「後回しでよいこと」を分けてみると、ご自身がどのあたりに立っているのかが、少し見えてくるかもしれません。とはいえ、一人で線引きするのは案外むずかしいものです。売ると決めていなくても構いません。事務所の状況を第三者と一緒に眺めてみると、優先順位が整理されることがあります。エナウトパートナーズでは、こうした「まだ何も決めていない段階」からのご相談も承っています(無料・オンライン対応可)。
承継の方法によって、必要な準備期間は変わります
「今やること」を絞り込むうえで、避けて通れないのが承継の方法です。どの道を選ぶかで、必要な準備期間が大きく変わるからです。
承継といっても、道は一つではありません。ご子息やご親族に引き継ぐ道、事務所の職員に引き継ぐ道、第三者への承継(M&A)で外部に引き継ぐ道。そして、あえて廃業を選ぶ道、もう少し現役を続ける道もあります。どれが正しいということはなく、先生の事情に合う道が正解です。
方法ごとの準備期間の目安を、下の表に整理しました。
| 承継の方法 | 準備期間の目安 | 顧問先への影響 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 5〜10年 | 引き継ぎが緩やかで、関係を保ちやすい |
| 従業員承継 | 3〜5年 | 担当者が残るため、顧問先の安心につながりやすい |
| 第三者への承継(M&A) | 半年〜2年 | 引き継ぎ方次第で、丁寧な説明が要る |
数字を見て驚かれたかもしれません。親族に引き継ぐ場合、後継者を育てる時間を含めると5年から10年かかることもあります。従業員への承継でも3年から5年。時間がかかる道ほど、早く動き出す意味が大きくなります。
一方、第三者への承継は比較的短い期間で進むこともあります。ただし短いから楽というわけではなく、顧問先への向き合い方に配慮が必要です。
そして忘れてはならないのが、廃業や現役続行も対等な選択肢だということです。売ることだけが答えではありません。事務所をきれいに畳むのも、もう数年続けるのも、立派な決断です。
もっとも、「売却か廃業か、まだ決めきれない」という段階の先生も多いと思います。その気持ちのまま無理に一つへ絞る必要はありません。判断の軸を落ち着いて整理するための記事も別にご用意していますので、迷いの最中にある方はそちらも手がかりにしてみてください。
顧問先にも関わる話——先生おひとりの問題ではありません
ここまで承継の準備を先生ご自身の視点で書いてきました。でも、この話は先生一人で完結するものではありません。
先生の事務所には、長くお付き合いのある顧問先があります。決算を任せ、税務を託し、ときには経営の相談相手にもなってきた——そういう関係を築いてこられたのではないでしょうか。先生の承継は、その顧問先の未来にも静かに関わってきます。
担当が変わること、引き継ぎがどう進むこと。顧問先にとっては、それ自体が不安の種になり得ます。だからこそ、いつ・どう伝えるかは、承継の方法と同じくらい丁寧に考えたいところです。
とはいえ、今すぐ全顧問先に打ち明ける必要はありません。方針が定まらないうちに動くと、かえって混乱を招くこともあります。まずは先生の中で方向性を固める。伝えるのはその後で構いません。
「自分だけの問題ではない」と思うと、肩の荷が重く感じられるかもしれません。でも見方を変えれば、それは先生がこれまで築いてきた信頼の証でもあります。その信頼を、次にどうつなぐか。一緒に考えていける話です。
制度を実際に使えるかは、必ず専門機関で確認を
ここまで制度の期限や準備期間をお話ししてきました。ただ、一つだけ強くお伝えしたいことがあります。
この記事は、制度の全体像をつかんでいただくためのものです。先生の事務所が実際に事業承継税制を使えるかどうか、税額がどうなるか、といった個別の判断はしていません。適用の可否や税額は、事務所ごとの事情によって変わります。記事の情報だけで判断すると、思わぬ行き違いが起きかねません。
実際に制度を使えるかを確かめるときは、必ず専門機関にあたってください。制度の詳細は中小企業庁(法人版事業承継税制の窓口)や国税庁の事業承継税制の案内で確認できます。個別の可否や手続きは、顧問税理士や事業承継の窓口にご相談ください。
先生ご自身が税務のプロでいらっしゃっても、ご自分の承継となると立場が変わります。第三者の目を一度通す。それが、あとで安心できる進め方だと思います。
まとめ:延びた期限に甘えず、でも焦らず
最後に、大事な点をもう一度だけ整理します。
今回延びたのは、特例承継計画を出す期限だけです。承継を実際に行う実行期限は延びていません。この非対称を、どうか忘れないでください。逆算の起点は、延びた提出期限ではなく、延びていない実行期限のほうです。
そのうえで、すべてを今すぐ抱え込む必要はありません。方向性を決める材料集めと、実行期限の確認。まずはその二つから。準備の重い部分は、方針が固まってからで間に合うことも多いものです。
延びた期限に甘えず、けれど焦らず。今夜できる小さな一歩は、ご自分の事務所の実行期限を一度確かめてみることかもしれません。
💬 まずは30分、お話ししてみませんか
何が延びて何が延びていないのかを整理できても、「では自分は何から手をつけるか」となると、また別の悩みが出てくるものです。
「売る」と決めていなくても構いません。承継・継続・廃業、どの道もまだ選んでいない段階で結構です。事務所の将来について第三者の視点を入れてみることで、見えてくるものがあります。
エナウトパートナーズでは、事務所の状況に合わせた個別のご相談を承っています(無料・オンライン対応可)。急かすことはいたしません。ご自身のペースで、考えを一緒に整理していきましょう。
なお、承継の進め方を最初から最後まで大きな流れで見渡したい先生には、全体像を整理した記事も別にご用意しています。落ち着いて俯瞰したくなったときの手がかりにしてください。
よくある疑問・不安
Q1. 提出期限が延びたなら、承継の準備も後回しにして大丈夫ですか?
延びたのは計画を出す期限だけで、承継を実行する期限は据え置きのままです。承継の方法によっては準備に数年かかるものもあり、実行期限から逆算すると後回しにできない部分が出てきます。提出期限ではなく実行期限を起点に考えるのがおすすめです。
Q2. 法人版と個人版で期限が違うと聞きました。どう違うのですか?
提出期限は、法人版が2027年9月30日、個人版が2028年9月30日で、1年ずれています。実行期限も法人版が2027年12月31日、個人版が2028年12月31日と異なります。ご自身の事務所がどちらに当たるかは、専門機関でご確認ください。
Q3. 実行期限は、この先また延長されないのでしょうか?
実行期限は期間を区切った時限措置で、現時点では今後延長されない見込みとされています。ただし断定はできません。最新の扱いは、国税庁や中小企業庁の公表内容をご確認ください。
Q4. 自分の事務所が制度の対象になるか、どこに聞けばいいですか?
制度を使えるかどうかは、事務所ごとの個別事情によって変わるため、この記事では判断できません。国税庁や中小企業庁の事業承継税制の窓口、または顧問税理士にご相談ください。