売ろうと決めたわけではない、でも何となく気になっている。そんな状態で「税理士事務所 売却 タイミング」と検索された先生も多いのではないでしょうか。

この記事では、「今の事務所の状態が、動き始めるタイミングなのかどうか」を業績・年齢・税制の3つの軸から整理しました。結論を押しつけるためのものではありません。先生がご自分でGOサインを見極めるための地図として使っていただければと思います。売却以外の選択肢も含めた全体像を先に知りたい方は、引退・廃業の相談窓口を比較した記事もあわせてご覧ください。

「売り時」というのは、何を意味するのか

疑問を抱く中年男性のイラスト

売り時を逃したくない。でも早まりたくもない。この2つの気持ちのあいだで揺れているのは、自然なことだと思います。

ここでいう「売り時」とは、単に業績が一番高いタイミングのことではありません。価格が有利になるタイミングと、先生ご自身が納得して手放せるタイミング。この2つが重なる地点が、本当の意味での売り時です。

業績が最高点のときが必ずしも売り時にならないのは、売却に準備と交渉の時間が必要だからです。一般的に、事務所の譲渡には買い手探しから引き継ぎまで2〜3年かかると言われます。数字がピークに見えても、そこから動き出すのでは交渉の余力が残りにくい。だから「少し手前」で考え始めるほうが、結果的に納得のいく着地になりやすいのです。

この「売り時」を、業績・年齢・税制の3つの軸に分けて見ていきます。1つずつ、ご自分の事務所に当てはめながら読んでみてください。

【業績軸】事務所の数字は今、どんな状態ですか

業績が落ちないうちに動いたほうがいいのだろうか。そんな焦りを感じている先生もいらっしゃるかもしれません。でも、少し数字が動いたくらいで手遅れになるわけではありません。まずは落ち着いて、3つの指標で今の状態を見てみましょう。

直近3期の決算トレンドをどう読むか

買い手が最初に見るのは、直近3期の売上と営業利益の推移です。3年分を並べたとき、横ばいから微増であれば、買い手にとって安心できる材料になります。

一方、右肩下がりが始まった後は、価格交渉の力がだんだん弱まる目安になります。ただ、前期より少し落ちた程度であれば、それだけで手遅れということはありません。大事なのは、トレンドが下を向き始める「前」に一度状況を整理しておくことです。

顧問先継続率が評価額を左右する仕組み

なぜ顧問先の継続率が大切なのか。買い手が引き継ぐのは、ほかでもない先生の顧問先だからです。

継続率が高い事務所は、買い手から見れば「引き継いだあとも顧問料収入が続く」見込みが立ちます。これがリスクの低さにつながり、いわゆる「のれん」(営業権の価値)の評価を押し上げます。継続率が高く保てているうちが、業績軸でいう売り時のひとつの目安です。業界の感覚として継続率80%以上が望ましいと言われますが、これは推定値であり、事務所ごとに事情は異なります。

職員定着率が「引き継ぎやすさ」に直結する

買い手がもうひとつ気にするのが、承継したあとの運営リスクです。平たく言えば「スタッフが辞めずに残ってくれるか」です。

職員の定着率が高い事務所は、業務が仕組みとして回っていて、特定の人に頼りきりになっていない傾向があります。引き継ぎの負担が軽く、買い手にとって魅力的です。逆に、職員が立て続けに辞めてしまった時期は、交渉が難しくなりやすい目安と考えてよいでしょう。

次の表に、業績軸の3指標を「売り時かどうか」の観点でまとめました。

指標 売り時(有利) 要注意 交渉が難しくなる
決算トレンド 横ばい〜微増(3期) 1期のみ減少 2期連続減少
顧問先継続率 80%以上(推定) 70〜79% 70%未満
職員定着率 直近3年で退職者少 1〜2名退職 大幅な人員変動

※上記は業界一般の目安です。個別の事務所の状況により異なります。

数字を整えてから売却を考えたい、という先生は、評価額を上げる準備をまとめた評価額を売却前に上げる3つの準備もあわせてご覧ください。

【年齢軸】60代前半・後半・70代で変わること

年齢で選択肢が狭まってしまうのではないか。そう不安に感じる先生は少なくないと思います。年齢だけで決まるわけではありません。ただ、年齢帯によって「動きやすさ」が少しずつ変わるのも事実です。ご自分がどのゾーンにいるか、確認する材料にしてください。

60代前半(59〜64歳)—— 準備期間と交渉の余裕が重なるゾーン

売却の交渉や承継のプロセスには、一般的に2〜3年の準備期間がかかると言われます。60代前半は、この時間をゆとりを持って確保しやすいゾーンです。

焦らずに複数の買い手候補を比べ、条件をじっくり見極められる。これがこの年代の強みです。日本税理士会連合会の第7回税理士実態調査(2024年)では、税理士の60歳以上が53.6%を占めています。同世代が多い時代だからこそ、早めに動き出すと選択肢を広く持てます。

60代後半(65〜69歳)—— 「まだ間に合う」から「急いだほうがいい」に変わる境目

65〜69歳でも、十分に動けます。ただ、準備に2〜3年かかると、完了が70代前半にずれ込むことがあります。

「まだ間に合う」というのは本当です。一方で、複数の選択肢を見比べながら動く時間的な余裕は、少しずつ縮まっていきます。業績や健康が今後どうなるか、見通しにくくなるのもこの年代の特徴です。急いでくださいと言いたいわけではありません。選択肢が広く取れる段階を、知っておいてほしいのです。

70代以上 —— 選択肢はまだある、ただし交渉の柔軟度が変わる

70代で事務所を手放した例は、実際にあります。「もう手遅れ」ということはありません。

ただし、業績と体力の両面から、価格などの条件を調整できる幅は縮まりやすくなります。この段階では、廃業か売却かをあらためて天秤にかけることが、より現実的なテーマになってきます。どの年代であっても、今この時点から最善を一緒に考える。それがわたしたちの基本的な姿勢です。

年齢帯 準備期間の余裕 交渉の自由度 特徴
60代前半(〜64歳) 十分確保可能 高い 複数候補を比較検討できる
60代後半(65〜69歳) やや限られる 中程度 動き始めの判断が重要になる時期
70代以上 限られる 低〜中 選択肢はある。条件設定を現実的に

※個人差や事務所の状況により大きく異なります。年齢だけで判断しないでください。

年齢にまつわる不安そのものを整理したい方は、税理士事務所の売却、その不安の正体もご一読ください。

【税制軸】2027年末の期限が、スケジュールに影響する理由

「2027年に期限がある」と聞いて、少し焦った先生もいるかもしれません。落ち着いて読んでいただければと思います。これは税金の計算の話ではなく、スケジュールの段取りの話です。

事業承継税制とは、後継者が事業を引き継ぐ際の税負担を軽くする制度です。このうち特例承継計画の策定期限は、2027年12月31日とされています(中小企業庁・国税庁の公的情報)。

「個人事務所のうちには直接は関係ない」と感じる先生も多いでしょう。実際、制度がそのまま当てはまる範囲は限られます。ただ、見落としがちなのが買い手側の事情です。買い手がこの制度を使いたいと考える場合、2027年末に向けて動きが集中する可能性があります。

仮に「2027年末までに売却を完了させたい」と考えるとします。準備に2〜3年かかることから逆算すると、2025〜2026年のうちに考え始めるのがひとつの目安です。もちろん、強くおすすめするものではありません。税率や具体的な税額の計算、節税の方法については、必ず税理士や承継の専門家にご確認ください。売却に伴う税金の詳細は、別記事「税理士事務所を売ったら税金はいくら?」で扱う予定です。

3軸をあわせた「動き始めの目安」チェックリスト

なんとなく気になっている。その「なんとなく」を、具体的な言葉にしてみましょう。次のチェックリストで、ご自分の状況を点検してみてください。

【業績軸】

□ 直近3期の売上・利益が横ばい〜増加傾向にある

□ 顧問先の継続率がここ3年で大きく落ちていない

□ 職員の入れ替わりが少なく、業務が安定して回っている

【年齢軸】

□ 現在60〜67歳の間にある

□ 体力・健康面で今後2〜3年の交渉プロセスを進める見通しが立つ

□ 「あと何年続けるか」を真剣に考え始めた

【税制軸】

□ 2027年末に向けた承継スケジュールが気になっている

□ 売却後の税金・手取り額について整理したいと思っている

チェックが3つ以上入ったら、専門家に相談することが選択肢に入ってきます。当てはまるから売らなければいけない、という話ではありません。あくまで相談を考えるための材料です。なかには、もう少し待つほうが理にかなっている場合もあります。次の章で、その点にも触れます。


💬 「売ると決めていなくても、話してみることはできますか?」

チェックリストを確認してみて、いくつか当てはまった方へ。

売ると決めていなくても構いません。「今の状況を整理してみたい」「自分の事務所がどんな状態か、第三者に見てもらいたい」——そのくらいの気持ちで話せる場所があります。

エナウトパートナーズでは、まだ迷っている段階の先生との個別のご相談をお受けしています(無料・オンライン対応可)。

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※「申し込む=売ることを決める」ではありません。守秘義務を前提に、安心してお話しいただけます。


タイミングを逃しやすい「後回しパターン」に気づく

後回しにしてしまう。これは誰にでもあることです。責めるためにこの章を書いているのではありません。

事務所を手放すかどうかを先送りする理由は、だいたい似ています。日々の業務が忙しい。景気がもう少し良くなってから考えたい。子どもが巣立ってから。どれも、ごく自然な気持ちです。

ただ、結果的にタイミングを逃したとされるケースも報告されています。たとえば、業績が落ち始めてから動いたために、評価額が当初の想定を下回ったというケース。あるいは、体調を崩してしまい、交渉プロセスの途中で続けるのが難しくなったというケースです。いずれも特定の誰かの話ではなく、一般的に見られる傾向として語られているものです。

とはいえ、急ぐ必要はありません。もう少し待つことに合理性がある場合もあります。業績がまだ伸びている途中であるとき。後継者候補と話し合いを続けているとき。廃業や継続も含めて、これから整理したいとき。こうした状況なら、待つという判断も十分にあり得ます。

廃業と売却のどちらが自分に合うか迷っている先生は、廃業か売却か迷う税理士先生へで両者を比べてみてください。どちらを選ぶにせよ、今の事務所の状態を把握しておくことは、決して損になりません。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 60代後半でも買い手はつきますか?

「60代後半だから買い手がつかない」ということはありません。事務所の業績、顧問先の質、職員の定着状況など、年齢以外の要因が評価の中心になります。ただ、準備と交渉に時間的なゆとりが生まれやすいのは、より早い段階であることも事実です。

Q2. 業績が少し落ちてきたときは、もう手遅れですか?

1〜2期の減少で手遅れということはありません。ただし、「落ちる前が評価額の最大値に近い」という業界の一般的な傾向はあります。落ちてからでは遅い、と身構えるよりも、今の段階で一度状況を整理しておく。そんな動き方が選択肢のひとつです。

Q3. 事業承継税制の期限は2027年ですが、うちには関係ありますか?

個人事務所の場合、制度が直接当てはまる範囲は限られます。ただ、買い手側の承継スケジュールに影響することがあります。2027年に向けて売却の交渉が集中する可能性を念頭に、時期を考える意味はあります。詳しくは税理士や承継の専門家にご確認ください。

Q4. 売却を前提に動いてみて、やっぱりやめたときに困ることはありますか?

「話を聞いてみた」「評価額の目安を確認してみた」という段階では、基本的に義務は発生しません。ただし、複数の業者や仲介会社に情報を開示した場合は、情報管理に注意が必要です。まずは守秘義務を明確にした相談窓口から始めることをおすすめします。

まとめ

業績・年齢・税制。この3つの軸で、ご自分の事務所の「今」を見てきました。数字が落ちる前か、交渉の余裕がある年代か、スケジュールに影響する期限を意識しているか。どれも、決断のためではなく整理のための物差しです。

いきなり決める必要はありません。まずは状況を把握することから始められます。それだけで、「なんとなくの不安」は「考えられる課題」に変わります。

一人で抱え込まなくて大丈夫です。先生の事務所のこれからを、一緒に考えることから始めてみませんか。


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「売る」と決めていなくても構いません。「まだ迷っている」「誰かに話を聞いてもらいたい」——その段階で、ぜひ声をかけてください。

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