最近、同期の先生が事務所をたたんだという話を耳にして、ふと自分の将来が気になり始めた。そんな方に向けて書いています。

最初にお伝えしておくと、この記事は廃業を否定するための記事ではありません。廃業はれっきとした選択肢のひとつで、責められるものでも、避けるべきものでもないと考えています。

ただ、業界で長く話を聞いてきた中で、廃業を選んだあとに「あのときもう少し情報を持っていれば」と振り返る方が一定数いらっしゃるのも事実です。後悔の中身は、思っているよりも金銭面の話だけではありません。

この記事では、廃業を経験された方の話としてよく耳にする「3つの後悔」を順に紹介します。読んだうえで、それでも廃業がご自身に合うと思えるなら、それは納得のいく決断です。最後にもう一度、選択肢を一緒に確認できればと思います。

廃業届を出した後、何が起きたのか — 後悔は決断の半年後にやってくる

悩む中年男性のイラスト(廃業後の後悔・反省・振り返り)

廃業の意思決定そのものは、意外なほどスムーズに進むケースが多いと聞きます。顧問先への通知、職員の処遇、税理士会への届出。手順そのものは一定の段取りで片付いていきます。

揺り戻しが来るのは、その後です。

業界で耳にするのは、廃業から半年ほど経った頃、確定申告期や年末調整期といった季節の節目に、ふと強い違和感が押し寄せてくる、という話です。仕事のリズムで動いていた身体と頭が、その季節になっても動く先を持たない。手帳の同じページが何日も白いまま続く。

後悔の中身は人によって違いますが、業界の話を集めていくと、だいたい3つの軸に集約されるように感じます。顧問先のこと。収入のこと。そして、自分自身のこと。順に見ていきます。

後悔①「顧問先のことを思い出すと夜眠れない」税理士特有の喪失感

廃業を決める段階で、引継ぎ先の選定にしっかり時間をかける方は多いです。信頼できる同業の先生を探し、顧問先一件ずつに紹介状を出し、必要なら同席して引継ぎ面談を行う。手順としては丁寧に進められます。

それでも、業界で耳にする話としてよくあるのが、廃業から半年ほど経った頃に、30年来の顧問先から電話がかかってくる場面です。

「先生、本当はちょっと相談したいことがあるんだけど、新しい先生にはまだ聞きづらくて」。

自分はもう答える立場ではない。それは頭では分かっている。けれど受話器の向こうの声は、30年聞いてきた声そのものです。落ち込んだ、という方の話を耳にしたことがあります。

引継ぎ先を選ぶときに、専門領域や事務所の体制は比較できます。けれど「先生だから話せた」という関係性そのものは、簡単には引き継げません。廃業届で形式上の関係は終わっても、相手の記憶や期待は残り続けます。

確定申告期になると、引退したはずの自分の頭の中で、顧問先のリストを順番に思い浮かべてしまう。あの社長は今期どうしているだろう、あの奥さんの介護は落ち着いただろうか。気にかける先がたくさんあるのに、もう動ける立場ではない。この距離感に慣れるのに時間がかかる、という話もよく伺います。

顧問先との関係は、契約だけで成り立っていたわけではなかった。そのことに、廃業のあとで気づくのだそうです。

後悔②「収入が止まった瞬間に老後の現実が見えた」売却(M&A)を知らなかった後悔

廃業を経験された方が振り返って語るのは、廃業した翌月の感覚が、想像していたものと違ったという話です。

請求書を発行する仕事がない。

文字にすれば当たり前のことです。けれど、長年毎月当たり前に発生していた行為がぴたりと止まると、それは収入の話を超えて、生活のリズムそのものを揺らすのだといいます。

開業税理士には、勤め人のような退職金制度がありません。月々の顧問料という安定した売上が、ある月を境に年金と貯蓄だけに切り替わります。蓄えは事前に計算していても、実際にその振込スケジュールで暮らし始めると、見えてくる景色は違う。同業者の方からよく伺うのは、そういう話です。

そして、もうひとつよく耳にするのが、「もう少し違う形があったかもしれない」という問いです。

たとえば、顧問先ごと引き継ぐ形で売却していれば、廃業ではなく事業譲渡として対価が入っていたかもしれない。数百万から数千万の幅で値がつくケースが業界にはあると後から聞いた。当時は廃業以外の選択肢を真剣に検討する余裕がなかった。そういった声を、税理士会の集まりなどで耳にすることがあります。

これは「だから売却が正解だった」という話ではありません。売却にもまた別の負担や悩みがあります。ただ、廃業した後にしか見えない景色がある、ということだけは事実として並んでいるように思います。

廃業のときに比較すべきは、貯蓄と生活費だけではなかった。そう振り返る方が一定数いらっしゃいます。

廃業届を出す前に、もう少しだけ情報を集めてからでも遅くはないかもしれません。みがき承継では、廃業と売却を比べて迷っている方の雑談相談を無料でお受けしています。売却ありきの面談ではないので、「ただ話を聞いてみたい」「考えを整理したい」だけでも大丈夫です。同じように悩んだ方がどう判断したのか、お伝えできることがあるかもしれません。 まずは話を聞いてみる(無料・売却前提なし)

後悔③「肩書きを返した日から、自分が誰なのか分からなくなった」

3つ目は、最も静かにやってくる後悔です。

名刺を作り直した日。「税理士」の文字が消えた新しい名刺を見たとき、自分が何者なのか分からなくなった。そう語る方の話を、業界では何度か耳にしてきました。

長く先生と呼ばれてきた方が、ある日から呼ばれなくなる。

これは、思っているよりも重い変化のようです。

朝、決まった時間に事務所へ向かう習慣がなくなる。職員から相談を持ちかけられることがなくなる。顧問先からの電話が鳴らなくなる。税理士会からの案内が来なくなる。取引のあった金融機関の担当者も、世代交代の挨拶を最後にだんだんと足が遠のく。

ひとつひとつは小さな変化です。でも、積み重なっていくと、自分という人間を社会の中で位置づけてくれていたものが、ほぼ同時に薄くなっていくのが分かります。

趣味の時間で埋めようと考える方は多いです。ゴルフ、釣り、家庭菜園。実際に楽しい時間を持てる方ももちろんいらっしゃいます。

それでも業界で聞くのは、「時間は埋まっても、役割は埋まらなかった」という話です。

役割があるから人と会う。役割があるから話す内容がある。役割があるから感謝される。その軸を一気に外すと、時間は空いているのに、満たされない感覚だけが残ってしまう。

税理士会のOB会には行きづらい、という声も耳にします。現役の先生たちの話を聞くと、未練が出るのだそうです。離れたはずの場所のはずなのに、その場所のことが気になり続ける。

健康で気力もあるうちに早めに廃業した方ほど、この空白の大きさに苦しむという話もあります。仕事ができる体力と頭が残っているからこそ、何もしない一日が長く感じられる。

一方で、売却のあとも非常勤として残り、週に一度顧問先を見に行く形を選んだ方は、この空白がやや緩いという話も聞きます。役割の終わり方が、断崖か、なだらかな坂か、で受ける衝撃が違う。そう振り返る方もいらっしゃいます。

これは廃業を否定する話ではありません。ただ、廃業を選ぶときに「何を失うか」を、お金や仕事量だけで考えると、ここの想定が抜けやすいという話です。

それでも、まだ選択肢は残っている

ここまで3つの後悔を並べてきましたが、廃業はそれでも立派な選択肢のひとつです。事務所を閉じることそのものを否定する意図はまったくありません。

ただ、廃業を考える段階で、並べておきたい選択肢はいくつかあります。

  • 事業承継型M&A(顧問先ごと引き継ぐ形での譲渡)
  • 段階的縮小(顧問先を絞り、所長は週3勤務などに移行する形)
  • 非常勤として残る(売却後も顧問として一定期間関わる形)
  • 期限を設けた猶予(半年だけ判断を保留して、もう一度考えてみる形)

どれが正解、という話ではありません。それぞれに合う方と合わない方がいて、選んだ道ごとに違う種類の後悔と納得が待っています。

大事なのは、選択肢を比較したうえで決めたかどうか、なのだと思います。比較の機会を持たないまま廃業に進んでしまった方の振り返りには、共通する寂しさがあります。逆に、いくつかの道を検討したうえで「やはり廃業が自分には合っている」と決めた方の言葉には、しっかりとした静かさがあります。

情報を集めるのに、まだ遅すぎることはありません。

ここまで読んでいただいた方に、ひとつだけお伝えしたいことがあります。廃業を決める前に、半年だけ判断を保留してみませんか。半年あれば、見えてくる選択肢が変わることがあります。みがき承継では、無料の雑談相談をお受けしています。売却ありきの面談ではありません。「廃業のままがいいのか、別の道があるのか」を一緒に整理する時間として、どうぞお使いください。話してみて違うと感じたら、そのまま廃業を選んでいただいて構いません。 無料で相談してみる(売却前提なし・雑談OK)みがき承継について詳しく見る

まとめ

廃業を選んだ方からよく聞く後悔は、大きく3つに集約されます。

ひとつは、顧問先との関係が形式上は終わっても、心の中では続いてしまうこと。ふたつめは、収入が止まった瞬間に老後の景色が思っていたものと変わること。みっつめは、肩書きを返した日から自分が誰なのか分からなくなること。

どれも、廃業届を出した日に一気に押し寄せてくる感情ではありません。半年後、一年後にゆっくりやってくるものです。だからこそ、決断のタイミングでは見えにくく、後から効いてきます。

今この記事を読んでいる方には、まだ時間があります。

正解はひとつではありません。売却・継続・廃業、どの道も尊重される選択です。ただ、知ったうえで選ぶことはできます。半年だけ立ち止まって、選択肢を並べてみる時間を持つことには、きっと意味があると思います。

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