税理士事務所の承継・売却にかかる税金と節税の考え方

税理士事務所の承継を考え始めたとき、多くの先生が真っ先に浮かべる疑問の一つが「税金はどれくらいかかるのだろう」というものです。30年かけて積み上げてきた事務所を売るとなれば、「まとまった金額が入っても、税金でかなりの部分が消えてしまうのでは」という不安は、ごく自然な気持ちだと思います。

この記事では、税理士事務所・会計事務所の承継や売却にかかわる税金の全体像を、パターン別に整理します。「どんな税金が関係するのか」「節税の選択肢にはどんなものがあるか」を知ることが、まず最初の一歩になります。個別の試算や具体的な節税の実行は状況によって異なりますので、全体像の把握を目的として読んでいただければと思います。

まず確認したいこと。個人事業か法人かで税務が変わります

税理士事務所の承継・売却を考えるうえで、最も基本的な前提が「事務所の形態」です。個人事業主として運営しているのか、税理士法人を設立しているのかによって、税金の種類も計算の仕組みも大きく変わります。

個人事業主の税理士(一人・小規模事務所に多い)

税理士の多くは個人事業主として開業しています。職員を数名抱えていても、法人格を持たずに運営しているケースは珍しくありません。この場合、事務所の「資産」は先生個人のものであり、承継・売却にかかわる税務はそれを前提に考えることになります。

税理士法人(複数の税理士が運営する事務所)

複数の社員税理士が参加し、法人格を持った形態です。社員権(株式に相当するもの)の譲渡という形で売却・承継の税務を整理できます。個人事業と比べて選択肢が広く、税負担の設計に幅を持たせやすい場合があります。

どちらの形態かを確認してから、以下を読み進めていただくと、自分の状況に当てはめやすくなります。

M&Aで売却するときの税金

第三者に売却するM&Aを検討している場合、事務所の形態によって受け取った対価への課税の仕組みが異なります。

個人事務所の売却税金:のれん代は総合課税で手取りが減りやすい?

個人事業の税理士事務所をM&Aで売却するとき、実質的に移転するのは「顧客との信頼関係」「職員の雇用」「事務所の仕組み」です。売却対価の多くは、こうした目に見えない価値、いわゆるのれん(営業権)に対して支払われます。

のれんの税務上の扱いは状況によって異なりますが、一般的には事業所得または雑所得として扱われ、他の所得と合算して課税される総合課税の対象になることが多いとされています。総合課税は所得が高くなるほど税率も高くなる累進構造のため、売却対価が大きければ税負担も重くなる傾向があります。

個人事業での売却は、税率の高い総合課税の対象になりやすいため、「想像より税負担が重かった」と感じるケースがあります。実際の課税額は売却の構造や他の所得の状況によって変わりますので、方針を固める前に税理士など専門家に確認しておくことをお勧めします。

税理士法人の売却税金:出資持分の譲渡なら税率20.315%で有利

税理士法人の場合は、社員権を譲渡する形でM&Aを進めることができます。個人が受け取る譲渡益には「申告分離課税(他の所得と切り離して課税する方法)」が適用されます。税率は所得税・住民税合わせて20.315%が目安とされており、所得の大きさに関わらず一定の税率が適用されます(2026年時点の一般的な水準として。個別の状況により異なります)。

総合課税と比べると、売却対価が大きくなっても税率が上がらないという特徴があります。「法人形態にしていてよかった」と感じる場面の一つが、売却時の税負担の違いです。

法人限定。役員退職金を活用する方法

法人の場合、売却の前後に役員退職金を受け取ることで、税負担を軽減できる場合があります。退職金は「退職所得控除」が使えるため、同じ金額でも通常の所得と比べて手取りが多くなりやすい仕組みです。ただし退職金の額には合理的な根拠(在任期間・役職・最終報酬月額などに基づく算定)が必要です。設定の仕方を誤ると税務調査の対象になるリスクもあるため、顧問税理士や専門のアドバイザーと一緒に設計することが大切です。

後継者に渡すときの税金。贈与・相続のパターン

M&Aによる売却ではなく、「信頼できる人に引き継いでもらいたい」という場合も、税務の整理が欠かせません。

親族への承継。事業承継税制の活用と現状

後継者が親族の場合、贈与や相続という形で事務所を引き継いでもらうことが一般的です。この際に活用できる制度が「事業承継税制」です。贈与税・相続税の支払いを猶予・免除する制度で、後継者が事業を継続することが条件になります。法人版(非上場株式が対象)と個人版(事業用資産が対象)の2種類があります。

ただし、特例措置を受けるために必要だった「特例承継計画(法人版)」の都道府県への提出受付は、2026年3月31日をもって終了しています。今から新たに計画を提出することはできません。

一方で、すでに計画を提出していた場合は、2027年12月31日までに行った贈与・相続について特例措置を受けることが可能です。計画を提出していなかった場合でも「一般措置」は存在しますが、猶予割合や対象となる資産の範囲に制限があります。

「自分の状況でどの制度が使えるのか」は、早めに専門家に確認しておくと安心です。

従業員・外部者への承継。対価の設計が税務に影響する

後継者が従業員や外部の税理士の場合、有償で渡すか、支援的に安く渡すかによって税務が変わります。完全に無償で渡すと、受け取る側に「みなし贈与」として贈与税が発生するリスクがあります。一方、適正な対価を受け取る場合は売却と同様の課税関係になります。

後継者の負担を減らしたいお気持ちは理解できますが、対価の設計は税務上の問題が起きないよう慎重に行うことが大切です。

節税を考えるときの3つの視点

「節税できるか」という問いに正直にお答えするなら、「状況次第で選択肢はある」というのが実態です。次の3つの視点から整理すると、考えやすくなります。

1. 承継の「形」次第で税負担が変わる

個人事業のまま売るのか、法人化して株式譲渡にするのか、贈与・相続で渡すのか。「どんな形で承継するか」の選択が、そのまま税負担に影響します。法人化は長期的な準備が必要ですが、「5年後に売りたい」という計画があれば、今から選択肢を検討することに意味があります。

2. 廃業と売却、税負担を比べると

廃業の場合、顧客・職員を引き継がずに業務を終了するため、原則としてのれん代に相当する課税は生じません。純粋に税負担だけで比較すれば、廃業が有利なケースもあります。ただし廃業には、顧客への対応や職員の処遇など、別のコストがかかります。「どちらが先生にとって最善か」は、税務だけでなく、顧客や職員との関係、引き継ぎ後の安心感も含めて考える必要があります。

3. 早めに動くほど選択肢が増える

節税の選択肢の多くは、時間のゆとりがあるほど実行しやすいものです。売却が決まってから考えるより、3〜5年前から準備を始めると、使える手段の幅が広がります。「まだ決めていないけど、税金がどうなるか知りたい」と思ったタイミングが、相談のしどきです。

まとめ

税理士事務所の承継・売却にかかる税金は、個人事業か法人か、売却か贈与か承継かによって大きく異なります。「一律でいくらかかる」という答えがないからこそ、まず全体像を知り、自分の状況に合った選択肢を探ることが大切です。

「思ったより節税の余地があった」と後から気づくより、動き始める前に一度、外部の視点を入れてみることをお勧めします。まだ売ると決めていなくても、選択肢を確認するだけで、不安が少し軽くなることがあります。


💬 まずは30分、お話ししてみませんか

「売る」と決めていなくても構いません。税金のことが気になって動けずにいるなら、一度、第三者の目で整理してみませんか。

エナウトパートナーズでは、事務所の状況に合わせた個別のご相談を承っています(無料・オンライン対応可)。

無料相談のお申し込み →


関連記事

  • 税理士事務所の売却相場はいくら?規模別の目安と価格が変わる5要因
  • 廃業か売却か迷う税理士先生へ。二項対立ではなく「あなたの事務所」で考える判断基準
← 記事一覧に戻る