「税理士事務所の売却相場って、どのくらいなのだろう」——夜、ふと気になって検索された先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
売ると決めたわけではない。でも、目安だけは知っておきたい。そんなお気持ちは、とても自然なことです。
日本税理士会連合会の調査によると、税理士登録者の平均年齢は60歳を超えています。同世代の先生方が引退や承継を考え始めるなかで、「自分の事務所にはどんな選択肢があるのか」と情報を集めておくことは、大切な一歩です。
この記事では、税理士事務所の売却相場の計算式と、価格に影響する5つの要因をわかりやすく整理します。「まず知る」ことから、一緒に始めてみませんか。
税理士事務所の売却相場——まず「目安の計算式」を知っておきましょう

「そもそも、事務所の値段はどうやって決まるの?」という疑問をお持ちの先生は多いと思います。まずは、業界で一般的に使われている計算式を確認してみましょう。
一般的に使われる2つの計算式
税理士事務所の売却相場を考えるとき、目安としてよく使われる計算式は次の2つです。
【計算式1】年間売上 × 0.8〜1倍 事務所の年間売上高に0.8〜1を掛けた金額が、ひとつの目安になります。比較的シンプルな計算式で、まず「だいたいこのくらいか」と把握するのに便利です。
【計算式2】営業利益(または正常収益) × 2〜5年分 もうひとつは、営業利益(売上から経費を引いた利益)を基準にする方法です。利益の2〜5年分が目安とされています。利益率が高い事務所ほど、評価が高くなる傾向があります。
ただし、これらはあくまで「目安」です。実際の売却価格は、買い手との交渉や事務所ごとの事情によって大きく変わります。「この計算式で出た金額=売れる金額」ではない点は、ぜひ覚えておいてください。
具体例で「自分ごと」にしてみる
たとえば、顧問先が40件、月額顧問料の平均が3万円の事務所の場合です。年間売上は約1,440万円となり、計算式では約1,150万円〜1,300万円が目安となります。あくまで機械的に計算した目安です。大切なのは、相場を知ることと、売却を決めることはまったく別のステップだということです。今すぐ何かを決める必要はありません。
相場より高くなる事務所、低くなる事務所——価格に影響する5つの要因
計算式はあくまで出発点です。「うちの事務所は、目安より高くなるのか、低くなるのか」——ここが本当に気になるところではないでしょうか。価格に影響する代表的な要因を、プラス面とマイナス面に分けて整理します。
価格を上げる要因(プラス評価されること)
以下のような特徴がある事務所は、目安よりも高く評価されやすい傾向があります。
- 顧問先との関係が長い(継続率が高い):売却後も収益が見込めることが評価されます
- 記帳代行以外の付加価値業務がある:税務申告・資金調達支援など、単価の高いサービスが評価されます
- 若手スタッフが在籍している:引き継ぎがスムーズにできる体制があると、買い手のリスクが下がります
- 地域の独占性がある:競合が少ない地域での長年の信頼やネットワークそのものが価値になります
価格を下げる要因(マイナス評価されること)
一方で、以下のような要因は価格にマイナスの影響を与えることがあります。
- 所長個人への依存度が高い:「先生だから頼んでいる」という顧問先は、売却後に離れるリスクがあります。これは買い手が最も気にするポイントのひとつです
- 顧問先の業種が偏っている:特定の業種に集中していると、その業種の不況時のリスクが高まります
- 顧問先の高齢化・廃業リスク:顧問先オーナーの高齢化は、将来の収益減少リスクとして評価されます
これらの要因は「良い・悪い」ではなく、あくまで「価格にどう影響するか」という視点です。ご自身の事務所に当てはめて、「うちはどうだろう」と考えるきっかけにしていただければ幸いです。
「顧問先はどうなる?従業員は?」——多くの先生が気にする2つの不安
相場や計算式も大事ですが、多くの先生が本当に気にしているのは、もっと身近なことではないでしょうか。「長年お付き合いしてきた顧問先は大丈夫だろうか」「スタッフの生活はどうなるのか」——こうした不安を抱えるのは、当然のことです。
顧問先への影響——引き継ぎ後に「先生が変わる」のは普通のことか
「自分がいなくなったら、顧問先に迷惑をかけてしまうのでは」と心配される先生は多くいらっしゃいます。一般的には、引き継ぎ後も担当者がそのまま継続するケースが多いと言われています。買い手としても、顧問先との関係を維持することが最優先だからです。
「事務所を譲ること」は、顧問先への裏切りではありません。むしろ、「自分がいなくなった後も、顧問先が安心して相談できる先生を見つけておく」という、責任ある選択ともいえるのではないでしょうか。
従業員への影響——スタッフはどうなるのか
「スタッフを路頭に迷わせるわけにはいかない」——そう思うからこそ、なかなか動き出せないという先生もいらっしゃるかもしれません。一般的には、事務所の売却においてスタッフの雇用継続が前提条件になるケースが多いようです。買い手にとっても、業務を熟知したスタッフは貴重な戦力です。
むしろ、廃業を選んだ場合のほうが、スタッフの再就職先を探す必要が出てきます。「スタッフの未来を守りたい」という想いは、売却を検討する理由のひとつにもなりえます。
廃業と売却、どちらが先生に向いているか——比較表で整理する
「売却がいいのか、廃業がいいのか」——これは多くの先生が悩むポイントです。どちらが正解ということはなく、先生の状況によって最適な選択は変わります。
廃業と売却の比較表
| 比較項目 | 廃業 | 売却(第三者承継) |
|---|---|---|
| 経済的メリット | 売却対価はなし | 売却対価を得られる可能性がある |
| 顧問先への影響 | 自力で次の税理士を探す必要がある | 引き継ぎにより負担は比較的少ない |
| 従業員への影響 | 離職が前提。再就職先の確保が必要 | 雇用継続が前提条件になるケースが多い |
| 準備期間 | 比較的短い(数ヶ月〜) | ある程度の期間が必要(半年〜1年以上) |
| 手間と複雑さ | 届出・顧問先への通知が中心 | 買い手探し・交渉・契約など手続きが多い |
どちらを選ぶかは「今の状況」によって変わる
スタッフがいて顧問先も安定している事務所なら、売却のほうが関係者への影響が少ないかもしれません。一方、一人事務所で顧問先も少数であれば、廃業のほうがシンプルに進められることもあります。どちらの道を選ぶにしても、一人で抱え込む必要はありません。
まとめ
この記事では、税理士事務所の売却相場について3つのポイントを整理しました。
- 相場の目安:年間売上 × 0.8〜1倍、または営業利益(または正常収益) × 2〜5年分が一般的な計算式
- 価格に影響する要因:顧問先の継続率、付加価値業務、スタッフ体制、所長依存度などで上下する
- 廃業と売却の違い:経済面・顧問先・従業員への影響がそれぞれ異なる。状況に応じた選択が大切
情報を知ることと、決断することは、別のステップです。今日この記事を読んだことは、先生にとって確かな一歩になるはずです。
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